代表挨拶


協同金融研究会 代表
日本大学教授 平澤 克彦

  2021年5月の総会におきまして新たに代表に選出されました日本大学の平澤と申します。ご指導賜りますようお願いいたします。
  さて私は、経営学、とりわけ人事・労務といった領域を研究しております。ご存じのように経営学は、企業に代表される組織の戦略や管理を扱う研究分野であり、組織一般を研究対象と標榜するために、協同組織も研究の対象とされているものの、ほとんど研究されてこなかったように感じられます。むしろ企業の発展が経済や社会の成長に寄与するという視点から、とくに寡占と表現される大企業の戦略や管理の問題が取り上げられてきました。けれども、こうした企業の活動の生み出す社会的な問題については看過されてきました。私たちの研究課題は、企業のもたらす問題に注目し、大企業の経営行動を問うことにありました。
  このような私が、協同組織と接点を持つようになりましたのは、平石裕一様などにお誘いいただいたシュルツェの『庶民銀行論』の翻訳でした。門外漢の私には、翻訳はとても歯が立つものではありませんでした。けれども、翻訳に関連して訪問した、統一間もないデーリッチュの街で、東独での迫害のなかシュルツェの業績を守り続けた人々や、100年以上も前にシュルツェの思想を持ち帰ろうとかの地を訪れた日本人の「協同」への思いを目の当たりにし、強い印象をうけました。
  「協同組織」を研究するほどの能力も余裕も持ち合わせておりませんでしたが、今回、研究会の運営にかかわるお話をいただき、いくつかの信用金庫様のお話を聞く機会がありました。コロナ禍のなかでも「協同」に対する思いが受け継がれていることに強い感銘をうけました。
  このたび代表という重責を担うことになりましたが、責任を果たせるか大変心もとない状況です。けれども、200年近くに及んで営々と築きあげられてきた「協同」に対する思いと、なによりも安田元三先生や齊藤正先生に代表される諸先輩の作られてきた伝統を汚さぬよう努力してまいりたいと存じます。
  なんども繰り返しておりますように、これからしっかり学んでいきたいと考えておりますが、「協同組織」については門外漢であります。会員のみなさまからのご支援をなにとぞよろしくお願いいたします。

2021年5月28日

「ニュースレター152:コロナ禍の下で期待される協同組織金融機関と当研究会の役割」(平澤克彦)はこちら

退任のご挨拶
協同金融研究会 前代表 齊藤 正

  5月28日の総会において、平澤克彦日本大学教授が代表に選出され、10年(2007年5月~2009年5月、2013年5月~2021年5月)にわたって務めさせていただいた代表を退任することになりました。
  協同組織金融四業態の役職者を中心とする業態横断的な研究会である点に、本会の他に例を見ない特色があることは自負しうるところですが、1993(平成5)年の創立以来四半世紀以上続いて来られましたのも、各協会さまはじめ四業態の各組織、会員の皆さまの多大なるご理解・ご協力のおかげであると心から感謝申し上げます。
  「継続は力なり」と申しますが、本会の礎を築かれ、その後の発展に多大なご貢献を果たされた初代事務局長の平石裕一氏、初代代表の安田元三先生からバトンを受け、この度、何とか平澤先生に引き継ぐことができたことに安堵しているところです。

  振り返りますと、創立の末席に名を連ねて以来、本会は私にとって「協同金融」の意義を現場を通じて学ぶまたとない「学校」であり続けました。学界に身を置く者としてなにがしかの貢献ができたとすれば、まさにその多くは本会での学びによるものであります。
  また、本会の基本的活動である、隔月の定例研究会、秋の先進事例視察、3月のシンポジウムを通じて、現場でご活躍されている実に多くの「協同組合人」に出会うことができたことは、これまでの人生においても、そしてこれからの「終活」にとっても大きな財産です。

  とはいえ、この間、協同金融をめぐる環境は大きく変化し、厳しさを増しています。本会では、協同金融をめぐる状況の把握と取り組むべき課題について、逐次、会員の皆さまと共有することに努め、社会に発信してきましたが、グローバル化、少子化の下で、現下の地域経済社会はかつてなくその持続可能性自体が脅かされています。
  とりわけ、昨年10月の『ニュースレター』の第151号でも触れました(「『自助』、『共助』、『公助』~コロナ禍を乗り越えるために」)が、コロナ禍は「当たり前」とみなしていた「日常風景」が、医療・介護・保育等、「いのちや健康」を支える現場の苛酷な勤務実態とそれに見合わない給与水準の下での「エッセンシャルな営み」によって支えられていること、そして、経済効率性を優先させるグローバル資本主義が席巻し、マスク不足に象徴された、生活必需品の大半までを海外に依存する傾向が強まるなかで、地域経済を支える中小商工業者や農業者の営業が困難な状況に追い込まれてきました。
  コロナ禍はそれに追い打ちをかけるものでありましたが、そうした中にあって、この1年、協同組織四業態が地域再生に向けてそれぞれの役割を懸命に果たそうとする姿に触れるたび、本会の活動が中断を余儀なくされ、会員の皆さまのご期待に十分応えることができなかったことに忸怩たる思いでいっぱいでしたが、平澤新代表の下での新たなスタート、本会のさらなる発展を願ってやみません。今後は一会員として、役員および運営委員の皆さまを少しでも支えられることを念じて退任のご挨拶といたします。

2021年5月28日

「ニュースレター151:『自助』、『共助』、『公助』~コロナ禍を乗り越えるために」(齊藤 正)はこちら